佐々木耕司コラム

「金メダルへの道」について


皆さんこんにちは。K-snow JAPAN代表の佐々木耕司です。
バンクーバーオリンピックパラレル大回転のテレビ解説のため、2月22日からバンクーバーへいってきました。パラレル大回転が行われたサイプレスマウンテンは、バンクーバーの中心地から車で約40分ほどのところにあり、観客や選手、役員を含むすべての人はスキー場の上部の区間(約1km)をシャトルバス2回乗り換えてスキー場に到着するという道順でした。簡単に大会の様子をお話ししますと、2月26日は女子パラレル大回転が行われました。天候はあいにくの雨であり、霧が濃いコンディションで競技ができるか心配しましたが、雪質は雪面硬化剤を撒いて固くしまった状態となり、競技が成立するコンディションとなりました。今回上位入賞が期待され日本から出場した竹内選手は13位、家根谷選手は21位という順位でした。結果は残念でしたが、2人ともこの日のためにトレーニングを重ね、自分の実力を存分に発揮することに挑んだ結果ですので、だれもどうのこうの言えることではないと思いますし、この健闘を心から称えてあげたいと思います。
女子の優勝は、オランダにスキー・スノーボード競技ともに初の金メダルをもたらしたニコリアン選手、銀メダルはロシアのイリュヒナ選手、銅メダルはオーストリアのクライナー選手でした。優勝したニコリアン選手は、1996年にWCに参戦してから約14年にして、15回の世界選手権大会の出場、193回のワールドカップに参戦し、ワールドカップで20回の表彰台を経験した上でこの快挙を成し遂げました。これは、オランダ史上初のスノーボード種目でのメダル獲得(しかも金メダル)です。私がナショナルチームのチーフコーチをしていたときは、まだ幼い少女でしたが、お父さんと妹さんとで、ヨーロッパ中をキャンピングカーで遠征し(今やその同期の日本人女子選手の多くが子供を産みお母さんとなっている)、その間ずっとトレーニングを続けてきた賜であると思います。2009年秋にヨーロッパ大会遠征に行った際のことですが、ヨーロッパカップが終了した翌日われわれ日本人は、視界が悪く雪が降るコンディションの中、昨日の大会の反省と次回へのステップアップのために、ゲートトレーニングを行っていると、なんとそこへニコリアン姉妹が現れて、一緒に練習をさせてくれというのです。ワールドカップランキング1位の選手であれば、通常は大会の次の日で体を休ませる選手が多く、ましてはトレーニングにはあまり適さない条件の中、しかも我々のようなナショナルチーム格下のチーのトレーニングに一緒にとは、とても想像ができない状況(お父さんと私が古くから知っていたということもありますが)でしたので、その理由を尋ねてみると、オランダには山が無く、ヨーロッパのアルプスまで時間と費用をかけて遠征に来ているので、1日たりとも無駄にはできないし、雪があればどんなコンディションでも練習しておくことが大事だと考えている。それは、大会が良いコンディションだけではなく、どんな厳しいコンディションでも行われるからである。とのこと。確かにその時は、霧が濃く雪がふかふかのコンディションで、選手が滑るたびに溝ができてそれが固くしまっていく状況で、日本人選手達はバーン状況が荒れて来る度に完走率やスピードが遅くなるのですが、ニコリアンはそのようなコンディションになっても変わらずに滑ってきました。パラレル大回転の競技では、優勝するまでにバーンが荒れてくる状況の中を10本すべることが要求され、まさに彼女の滑りはワールドカップランキング1位の選手だと思わせる滑りでした。
今回のオリンピックでは霧と雨のコンディションの中で大会が行われましたが、きっと努力家のニコリアンにおいては、これは何度も経験した状況であり、日々のたゆまない努力の結果、彼女に五輪の女神が微笑み金メダルをもたらしたことであると思いました。

翌日の男子パラレル大回転は、大雨の天候にて開催され、日本から参加した野藤選手が27位、優勝は悲願のメダル獲得をした地元カナダのジェイシージェイアンダーソン選手、銀メダルはオーストリアのベンジャミンカール選手、銅メダルは、フランスのマチューボゼット選手でした。金のアンダーソン選手と銅のボゼット選手は、これまでにワールドカップで30勝以上、世界選手権大会でも数々のメダルを獲得している最強の選手ですが、オリンピックに関してはメダル最有力選手として3度出場しましたが、なぜか今まで無冠であり、現役最後かと思われる今回の大会で悲願のメダルを獲得しました。2人とも昔からよく知っている選手でしたので、今回メダルを獲得したことは、とてもうれしく思いました。また、決勝戦の1本目に相手に0.76リードされた後のアンダーソン選手の2本目の滑りは、まさに”世界一のフルアタック”の滑りであったため、今までにないほど体中が震え感動しました。
※別件ですが、彼らが悲願のメダルをとったのはとても嬉しいことですが、実は3月中旬〜4月上旬に予定しているケスラーキャンプにジェイシーかマチューに来てもらうように打診をしていましたが、彼らが今回メダルを取ったため多忙な日々を過ごしているようで、日程の確保・調整が難航することが予想されています。

今回は、”金メダルへの道”についてお話ししたいと思います。
一流のトップアスリートになるには、個人差がありますが、一般的に最低でも10年もしくは1万時間の競技選手トレーニングが必要と言われています。それらの前段階には、そのスポーツを”楽しむ時期”、”基本を学ぶ時期”が必要であると言われています。長期にわたる厳しいトレーニングを乗り越えていくためには、そのスポーツが好きであるということが大前提であり、どんなことをしてもそれが好きであるから自分はしているんだということが、長いトレーニングや厳しいトレーニングの支えになるからです。もしそれらがない場合、トレーニングの途中で行き詰まったときに、”どうして自分はこのスポーツをしているのか?なんのためにしているのか?”という疑問に直面し、これを解決するのに時間と労力を費やし、最悪のケースはドロップアウトしてしまうことがあります。今回スノーボードクロスとパラレル競技で2つの金メダルと1つの銀メダルを獲得したカナダスノーボードチームの最高責任者との話の中で、金メダルに関するエピソードを聞いた一部をお話ししますと、まずは長期目標をしっかりとたてて、それを実行することが大切である。そして、今回の大偉業の一つのキーとして、各選手への用具のマッチングを徹底的に行ったとのことでした。五輪の前年の6月には、ケスラースノーボードの社長であり技術責任者であるハンス氏をウィスラースキー場に招き、雪上での用具テストを何度も行い、その後作られたボードを何度も何度もテストをして選手自身のライディングにあった速い用具を選び、この大会に挑んだそうです。
滑りのテクニックの進化にあわせて用具を常に意識した結果から、この偉業を成し遂げました。特にスノーボードクロス競技では、この用具の選択を数多く行ない選手にあったものを使うことで、スタートからの速い加速をものにしたとのことです。

金メダルのためにはさまざまな要素が必要となりますが、最後にメダルを勝ちとるためには、どれだけ努力したか、どれだけ勝ちたいと思ったか、どれだけメダルを獲りたいと思ったかということに加えて、”運”が必要であると感じました。それは、いままで過ごした課程や取り組み方、その人の生き方により、五輪の女神が微笑んでくれるものだと思います。その運をキャッチするためには、そのための準備をしっかりとしておくことが必要不可欠であり、それは1日1日を目標に向けて大切に過ごすということであり、それが金メダルへの道につながっていくと私は考えています。

次回もまた皆さんのお役に立てるようなことをお話したいと思います。
楽しみにしておいてくださいね。
2010年03月01日(月) No.57 (コラム)

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